『 春を待つ頃 ― (1) ― 

 

 

 

 

 

       シャ −−−−−−−  ・・・・・

 

海沿いの道を 思いっ切り自転車を飛ばす。

頬に海風をうけ 頭上からはお日様が溢れるばかりの光を降らせてくれる。

 

   うっぴゃ・・・ ま〜〜ぶしい〜〜 

   けど あったかいなあ 

 

   き〜〜〜もち いい〜〜〜〜 (>_<)

 

ジョーは 目を細め道の先を眺めた。

対向車も 歩く人の姿もなく 平たい道は延々と続く。

 

   ・・・ あったかいな ・・・

   この辺は 冬でも温暖だけど もう春・・・?

 

   そんなはずないよなあ 

 

風の中には一抹の寒さが まだちゃんといるし

道の左右は 茶色になった枯草だらけ・・ 若緑はまだ見えない。

 

   ふ〜〜ん ・・・ 

   お日様は あったかい けどなあ

   うん 春はまだまだかあ ・・・

 

   あ〜〜 空気、冷たいけど 美味しい!

   へへ ・・・ 眩し〜〜 気持ちい〜〜

 

彼は 空に向けてぐん! と 顔を上げた。

この季節のことを 光の春 というらしい。

 

     シャ −−−−−−−  !!!

 

荷台にぱんぱんのレジ袋を括りつけた自転車は

一層 スピードを上げ海岸通りを 抜けて行った。

 

      ・・・ ぼくは。  生きてる !!

 

      うん・・・ 加速装置よか 全然 いい!

      ぼくは 生きてるんだ〜〜

 

ききき きぃ  〜〜  銀色の自転車はブレーキの音を響かせ

山側にカーブを切っていった。

 

今晩は 熱々の豚汁に卵焼き。 そしてほうれん草の胡麻よごし。

「 あ そうだな〜 そろそろ浅漬け、 いい感じかも♪ 」

なんだかワクワクしてきた。

カーブを曲がり切り 長い坂を上り始めると ― この時だけは

 サイボーグでよかった・・・ と本気で思う ― 

ジョーの < 家 > が見えてくる。

 

ちょいといい感じに年季の入った洋館、ギルモア邸。

崖の荒地に建つこの家は はかなり広いのであるが

現在の住人は 三人。 

ご当主の ドクター・ギルモアと 赤ん坊、 そして ジョー。

 

ギルモア博士の < 仕事 > に対する情熱は衰えるどころか

年々燃え盛ってきている。

そんな博士と 眠っていることの方が多い赤ん坊の

< 生活の世話  > が 現在のジョーの仕事? である。

 

つまり〜〜〜 おさんどん に 買い物に イワンの世話。

ジョーは 完全にこの家の 主夫 となり切り盛りもしている。

 

      ふんふんふ〜〜〜ん ♪

      あ そろそろ春のカーテンとか いるよなあ・・・

 

      いつまでも厚ぼったいのだと つまらないモン。

 

      う〜ん イワンの部屋は 可愛いのがいいなあ

      博士の部屋は やっぱまだ温かいのがいいか。  

      ぼくは ・・・ スカイ・ブルー。 うん いいよね!

 

世間の18〜9歳の男子の考えるコトとは ・・・ ちょっと違うかもしれないけど

彼は それも楽しい。

 

      あ そうだ! 

      明日 あの広告にあったパン屋 行ってみよ〜〜

 

  ギシギシ ガシガシ 〜〜〜〜 

 

自転車は 軽快にかなりの急坂を上りきった。

 

   カチャン。  低い門扉を開け、自転車を押してゆく。

 

「 ふ〜〜〜  ただいまあ〜〜〜〜 っと ! 

 お。 郵便 いっぱいじゃんか 」

カタン −  郵便受けには DMやら博士宛の会報誌やらが

詰まっていた。

 

「 うわ ・・・ なんだあ 広告が多いなあ〜

 あ ! この字・・・ フランからだ ! 」

今時 珍しいエア・メイルの封筒が目についた。

「 え・・・ ドクター ギルモア、 ミスタ シマムラ・・・

 ってことは ぼくにもってことだ〜

 わああ〜〜〜 博士〜〜〜 博士 〜〜〜

 フランソワーズから 手紙ですよぉ〜〜〜 

 

ジョーは 薄い封筒を大事そう〜に抱え、 玄関へと駆けて行った。

 

 

「 お帰り ジョー。 買い出し、ご苦労さん。  

「 ただいまです! 博士! フランソワーズから です〜 」

ジョーは 玄関に入るなりエア・メイルを差し出した。

「 お? ほう〜〜 エア・メイルかい。 久々じゃのう 」

「 えへ ・・・ フランらしいですね〜〜 メールの方が

 全然早いのにね 」

「 ふふ ・・・ こうやってはるばる空を越えて届くのも

 たまにはいいじゃろうよ 

「 フランっぽいなあ ・・・ 博士、 なんて?? 」

「 ああ ・・・ ちょいと待っておくれ。 」

「 あ ぼく、買い物、冷蔵庫とかに入れてきます〜

 あ 煙草屋のご隠居さんが また一局 打ちに来ませんか って 」

「 おお〜〜 そりゃうれしいなあ。 ワシも少しは腕を上げたからな 」

「 博士〜 リビングで待っててください 」

「 おう。 そうじゃ コーヒー、淹れておくよ 」

「 あ あのう ミルクと砂糖・・ 」

「 わかっとる。 ミルクと砂糖、たっぷり、じゃろ 」

「 えへ〜 お願いします 」

 

リビングで 二人はティ−・タイムを楽しんだ。

「 う〜〜ん ・・・ ジョー 腕を上げたな

 コーヒー 美味いぞ 

「 えへ そうですか?  ああ いい匂いだなあ ・・

 博士 ・・・ あのう 」

「 ああ そうじゃったな え〜と ・・・ 」

博士は カサコソとエア・メイルの封筒を開けた。

「 ふん ・・・おう〜〜 ジョー 」

「 はい ? 」

 

    フランソワーズが 帰ってくる ぞ !

 

「 え いつですか?? 」

ジョーは 思わず声を上げた。

「 あ〜〜 ○日のチケットを買ったそうじゃよ 」

「 うわあ 今週末ですね! 」

「 うむ うむ 久し振りじゃのう 」

「 はい!  あ フランの好きなイチゴ、買っておきます! 」

「 そうじゃな。 ああ 彼女の部屋、空気の入れ替えをしておこう 」

「 そうですね〜 あ、新しいリネン類とか出しておかなくちゃ。 」

「 そろそろイワンが起きる時期じゃて、 ちょうどよかったのう 

「 あ そうですよねえ〜〜

 そうだ! 張大人にも知らせて・・・美味しい料理、頼みます 」

「 うむ うむ。 楽しみじゃなあ 」

「 はい! あは キッチン、掃除しておかなくちゃ 」

「 いつもきれいにしておるじゃないか 」

「 いやあ〜〜  フラン、キビシイから ・・・ 

 うっは〜〜 忙しくなるなあ〜〜 怒られるよう 」

ジョーは 言葉とは逆にものすご〜〜〜〜く 嬉しそうだ。

 

    ふふふ よかったな、 ジョー 

 

博士はそんなジョーの笑顔が とても嬉しかった。

 

  ― さて その週末。

 

空港に迎えにゆくよ〜〜 とのメールには

≪ お家で待っててね。 荷物は少ないからご心配なく ≫

との 短い返事があったのみ。

 

   え〜 そうなのかあ・・・

   ・・・ 空港で 感動の出会い したかったんだけどなあ・・

 

   ! しっかり掃除しとかなきゃ!

 

ジョーは 年末大掃除 以上にがんがん・・・動き始めた。

 

そして −

 

  ぴんぽ〜〜ん   待ちかねた音が聞こえた。

 

「 わ! 」

ジョーは 文字通り玄関に飛んで行った。

 

「 お帰り! ・・・ あ いらっしゃい だね 

「 ジョー。 お帰り って言ってくれる? 」

「 え ・・・? 」

「 わたしのウチは ・・・ ここ だわ。 」

「 ― マジ? 

「 ええ。 < マジ > です。 わたし ここで暮らしたいの。

 博士は? 」

「 あ 多分 書斎に・・・ 博士〜〜 」

ジョ― が声をあげるまでもなく ギルモア博士は玄関に出てきた。

 

「 お帰り、フランソワーズ。 ここは お前の家だよ 」

「 ありがとうございます ・・・ 」

「 礼などいらんよ。 賑やかになってうれしいなあ。  

 なあ ジョー ? 」

「 え あ は はい!!  あ〜〜 きみの部屋 空気を

 入れ替えてあるよ。 リネン類も。 そうだ、カーテンも換えないと 」

「 ありがと、ジョー。 自分でやるわ。

 それよりも ・・・ 今晩の御飯の買い出し、付き合ってくれる? 

「 もっちろん! あ でも一応買い物はしてあるんだ ・・

「 あら そうなの? 」

「 あ でもチェックして〜〜〜 きみが必要なもの、ちゃんとあるかなあ 」

「 いいかしら?  ふふ 日本のお野菜、大好きなの! 」

「 あは そうだったね〜 ほうれん草とか 美味しいよ 

「 そうなの? ねえ やっぱり買い出しに行きたいわ。

 久々に日本のマーケットを見たいのよ  

「 それじゃ 一緒にゆこ! 

 あ ・・・ 自転車でどうかなあ 」

「 わたし 乗れないの 

「 え そ そうなんだ??  ・・・ うん いいよ!

 ぼくの後ろに乗って! 

「 え いいの? 」

「 もっちろ〜〜ん☆ あ 後ろにさ 座布団、括りつけとく! 」

「 きゃ ・・・ 初めて ・・・ 」

「 わ〜〜〜い あ あったかくして! マフラーぐるぐる〜〜

 で 手袋と帽子も ある? 」

「 ある! 待ってて。 荷物の中から出すから 

「 あ ごめん! スーツケース、二階まで運ぶよ! 」

「 え あのう ・・・ 重いわよ けっこう 」

「 ぼ〜くを誰だと思ってる?  ぜろぜろないん だよ〜〜ん 」

ジョーは くっと腕を曲げてみせてから 軽々スーツケースを

取り上げた。

「 で〜は お持ちしま〜す。 」

「 わあ ありがとう!  あ ドア 開けとくわ 」

 

  ぱたぱた  どたどた  ワカモノたちは二階に駆けあがって行った。

 

「 ふふふ ジョー・・・ よかったなあ ・・・

 フランソワーズも元気そうで安心じゃ ・・・

 オンナノコがいると 雰囲気が華やかになっていいのう 」

博士も ほっこりしている。

「 おお そうじゃ。 張大人に 出張料理を頼むとするか。

 皆で わいわい・・・楽しいぞ

 どれ 美味いワインでもだしておくか 」

 

  ひっそりとしていた邸は 一気に華やいだ空気が満ちてきた。

 

 

 

    シャ −−−−  

 

二人乗りの自転車が 田舎道をすっとばす。

「 ね〜〜 ジョー 〜〜〜 

後ろから 切れ切れに声が飛んできた。

「 ? なに〜〜〜 フラン〜〜 」

「 あの ね〜〜 二人乗りして・・・ 平気なのぉ〜〜? 」

「 え なに? 」

「 ふ た り のり! 叱られない? 」

「 あ〜 ・・・ 大丈夫 とおもう〜〜 」

「 そ う? 

「 ウン たぶん ・・・ あ さむくない? 」

「 平気! き〜〜もち い〜〜わ〜〜〜 」

「 もうちょっとだからね〜〜 」

「 ええ。 うふふ〜〜〜  たのし〜〜〜 」

ジョーのお腹には ぎっちり、細い腕が巻きついている。

ジョーの背中には ぴったり、いい匂いの身体がくっついている。

 

   えへへへへ〜〜〜〜  さ  いこ〜〜〜〜♪

 

彼はもう舞いあがりまくり まさに天にも上る心地、らしい。

 

  キキキッ!  商店街の入口で 自転車はゆっくりと止まった。

 

「 はい 到着しました。 御客様 下車願いまあす 」

「 ふふ ありがとう〜 

 スタ ・・・。  彼女は 身軽に飛び降りた。

「 大丈夫だった? 」

「 も〜〜最高! ね・・・ また 乗せてね 」

「 もっちろ〜〜〜ん♪  あ 帰りは 」

「 いいの、帰りはわたし 歩くわ。 ジョー 悪いけど荷物、

 自転車で運んでね 」

「 あ ・・・ あのさ 人目のないトコなら きみと荷物と

 両方のっけて行けるから 」

「 え ・・・ 大丈夫?? 」

「 あ〜〜 もう〜〜 ぼくを誰だと〜 

「 はいはい 009さん でしたね。

 ふふ さあ お買い物、しましょ。 」

「 うん。 あ ココに止めてとこっと。

ジョーは 商店街専用の駐輪場に自転車を置いた。

駐輪場も駐車場も なんだか空いていた・・・

 

「 おまたせ〜 さ 行こう 

「 ええ。 えっとね〜 まず あの、ほら・・・

 お野菜や果物のお店に行きたいわ。 なんて言うんだっけ・・ 」

「 八百屋さん だよ。  あ ほら あそこ。 」

「 やおやさん ね。  わあ〜〜果物、いっぱい〜〜〜

 きゃあ お野菜もたくさんある〜〜 

フランソワーズは 歓声を上げ八百屋の店先に駆け寄った。

 

  大根 人参 ジャガイモ。 セロリ レモン トマト キュウリ。

  ほうれん草  玉ねぎ  ニンニク。

 

ひとつ ひとつの野菜・果物を フランソワーズは歓声をあげ

そっと手にとる。

ゆっくり眺め 香をかぎ、ジョーに手渡す。

「 これ 買います。 あ ・・・ これはなあに 

「 うん。 え ああ これは シイタケさ。 」

「 し い た け? 

「 そ。 キノコ・・・ あ マッシュルームの一種さ 」

「 ふうん 美味しそう〜 これ 買いましょ 」

「 はいはい。 フラン・・・ 今晩の献立、なんなの? 」

「 え? あ〜 これから考えるわ。  あ! これは???

 ねえ ねえ この大きくて白くてすべすべしてるの、なあに? 」

「 だいこん。 あ〜〜 じゃぱに〜ず・らでいっしゅ 」

「 ラデイッシュ?? え これが?? 

 瑞々しくて美味しそうねえ  買います! 」

「 ・・・ うん 」

「 お兄さん、持てないだろう? ほれ この籠、使いな 」

八百屋の大将が 笑いつつ買い物カゴを貸してくれた。

「 あ ありがとうございます! 」

「 威勢のいいお姉さんだねえ・・・ あ きみのカノジョ?

 ・・・ 奥さん ってことは ないよねえ 

「 え えへへ  あのう・・・ 」

「 うふ♪ カノジョで〜〜す 」

フランソワーズは さっとジョーの隣に立ち腕を組んでみせた。

 

     えっ !?   

 

「 お〜〜 そんなんだ〜〜 お兄さん、いいなあ〜  

「 わたし、これから岬の家で暮らします。 お買い物に来ますから

 どうぞよろしく 

「 おお そうかい そうかい! 美人のお姉さん こちらこそ〜〜

 さ ウチの野菜や果物、 たんと見ていっておくれ 」

「 はい。  あ あれは ・・・ カリフラワー ね! 」

「 あ あのう ・・・ 」

「 ? なあに。 カリフラワーじゃないの? 

「 カリフラワーですけど ・・・ あのう、できれば ブロッコリーが 」

「 ブロッコリー?  ああ ここにあるわね。

 ジョーはブロッコリー 好きなのね 」

「 ・・・っていうか ・・ カリフラワー  苦手・・・ 」

「 あら そうなの? 美味しいのに・・・ 

 今度 カリフラワーのクリーム・ソース煮、作るわ!

 絶対好きになるわよ 

「 ・・ え 遠慮しますぅ 」

「 ? 可笑しなジョー ねえ ま いいわ。

 えっと あとは ・・・ りんご! レモンと これは オレンジ? 」

「 あ みかん。 これはこの地元産なんだ。 甘くて美味しいよぉ〜〜  」 

「 いいわねえ〜〜  あのう 箱で買えますか?  ええ はい、 その箱 ・・・・

 お願いします。 」

「 お姉さん、 これ以上買うと お兄さんが潰れちゃうよ 

 ウチから車で届けるから。 岬の家だろ 」

「 はい。 お願いします 〜〜  じゃ バナナも買いましょ。 

 ジョー 好きでしょ 

「 ・・・ はい。 

 

一軒目で 二人は荷物の大半は配達を頼んだのだが 

それでも手元の袋は山盛りになった。

「 ジョー ごめんなさい ・・・ 持てる? 

「 だ〜から〜〜〜 ぼくを誰だと 」

「 ふふふ 失礼しました。  あ でも ね・・・

 ほら 皆がびっくりしちゃう かも  

「 あ〜 そうだねえ   じゃ 自転車、引っ張ってくる。

 ちょっと待ってて。  あ この後どの店に寄る?

 まだ 八百屋しか行ってないよ 」

「 あ いけない。 お肉屋さんと あと サカナ屋さん。

 そうそう チーズ屋さんも 」

「 チーズ屋 ・・・ は ないかも 

「 え ないの?? 」

「 ウン ・・・ この商店街には ない、と思う・・・

 チーズ欲しいなら 駅前のスーパー、行こうか 」

「 あ それならいいわ。 まず お肉屋さんね 

「 オッケ〜〜 ちょっと待ってて。 」

ジョーは大荷物を抱えたまま 駐輪場に戻ろうとした。

「 あら わたしも行くわ。  そっちの袋、持ちます。 」

「 あ ありがとうございます。 」

「 ど〜いたしまして 」

 

    うふふふ  えへへへ  二人は顔を見合わせ笑い合う。

 

  カシャ ・・・ テリテリテリ ・・・

 

軽い音を立て ジョーは自転車を引いてゆく。

フランソワーズは一緒について歩きつつ、荷台の荷物に気を配る。

「 あ あのう フラン・・・ 疲れてない? 」

「 いいえ 全然。 なぜ 

「 だって・・・ 長旅の後だし 」

「 あ〜ら ジョー? わたしを誰だと〜〜 」

「 あは シツレイしました〜〜〜 」

「 はい わかればよろしい♪ 」

「 えへへ・・・ あ あの  聞いてもいい 」

「 なに? 」

「 あ あのう ・・・ 帰ってきてくれてすごく嬉しいんだ。

 でも ・・・ なにかあったのかい  そのう、故郷で 」

「 ・・・ 振られたの 

「 え!? 」

「 なんて ウソよ。 」

「 ・・・ あ  そ そう?? 」

「 ええ。 そうねえ 皆とまた暮らしたくなったから  かしら。 」

「 そっか〜〜〜  あ バレエは 」

「 勿論、踊るわ。  踊り続けるわ。 

 ヨコハマか東京で レッスンできるところ、探すつもり 」

「 うん うん  いいね〜 」

「 出来れば ・・・ オーディションとかも受けたいな って。 」

「 いいね いいね  なにか手伝えること、あったら言って!

 ぼく バレエのこと、全然わかんないけど 場所の案内とかは

 できるからさ。 」

「 ありがと。 頼りにしてま〜す 」

「 えへ ・・・ あ 肉屋さんだよ 」

「 あら きれいなお肉がいっぱい・・・ 」

二人は 自転車を止め、小奇麗な店に入っていった。

 

肉屋でも あれこれ・・・吟味して。

「 あ そのブロックの、ください。 」

「 ほいよ!  ・・・ お姉さん、大胆だねえ 」

「 ふふ ・・・ 大きいお肉は 美味しいでしょ? 」

「 まあな。 でも切るのが面倒・・・っていうお客さん 多いからね 」

「 あら 楽しみでしょ? 

「 そうなんだよ〜〜  ワカッテるねえ。

 お姉さん お国はどこ? 

「 あ フランス・・・ パリで生まれ育ちました。 」

「 ひょえ〜〜〜 おフランスかい〜〜 」

「 あの これからこの町で暮らします。 どうぞよろしく 

「 うわお〜 金髪美人大歓迎〜〜 ん?

 あ 岬の家の兄ちゃん・・・ え もしかしてカノジョさんかい? 」

肉屋の大将は 後ろにいるジョーに気づいた。

「 あ あの〜〜〜 ぼ ぼく達は ・・・ 」

「 うふふ はい、わたし、カノジョで〜す♪ よろしく 」

フランソワーズが ぴたっとくっついてきた。

「 だは〜〜〜〜 羨ましいね〜〜〜 」

「 ふふふ これからヨロシク(^^♪ 」

ばっちん! と ウィンクし オマケもしてもらい。

フランソワーズは ジョーと腕を組んで肉屋を後にした。

 

「 ごめんなさい ジョー 迷惑だったでしょ 

「 ! ううん ううん 全然 ぜ〜〜んぜん !

 きみこそ ・・・ ありがとう 」

「 ああいう風に言っておけば いろいろ聞かれなくなると思うの。

「 そうだね。 ・・・ < ホント > でい〜んだけどな〜 」

「 え なあに。 」

「 あ ウウン なんでも・・・ あ ねえ 疲れたろ?

 ちょっとお茶してこ? 」

ジョーは 地元に唯一存在する まっ〇 を指した。

「 わお 賛成♪ カノジョとお茶 しましょ 

「 へへ ・・・へ ・・・ 

二人は自転車を止め、なおかつ大荷物を持って店内に入った。

 

 ― 熱々のハンバーガーは やっぱりオイシイ。

コーヒーに シェイクに ポテトも頼んだ。

 

「 ふ〜〜〜  おいし〜〜〜〜 

「 ふふ・・・ きみもまっ○、好きなんだ? 」

「 大好き♪ ・・・ 日本のまっ○も、パリのと味、同じねえ 

「 そうなんだ?? あ 共通レシピとかあるのかもな 」

「 あ そうねえ  ジョーも好き? 」

「 すき! この町にはまっ○しかないんだ。

 駅の向うまでゆけば ケン○ とか すたば もあるけどね 」

「 そうなの? ああ いい町ね ・・・

 なんかとっても好きになりそう 」

「 よかった♪ 」

二人は ホンモノの カレシとカノジョ みたいに

にっこり・・・笑みを交わす。

( いや 傍からみれば ど〜みたってコイビト同士 だってばさ )

 

  カリカリ・・・ 

 

ジョーは 音をたててアイス・コーヒーの氷を食べている。 

 

「 ジョーは?  今 どうしてるの  

「 あ ぼく? ふふふ〜〜 この家のハウス・キーパー さ。

 これでもね〜〜 料理のレパートリーも、増えたよ

 レトルト食品 レンチン! じゃなくてね 」

「 まあ すごい〜〜 

「 洗濯機も掃除機も博士とイワンが 改良してくれてさ・・・

 ほぼ全自動だから あんまり仕事もないけど・・・

 あ でもさ〜 洗濯モノを乾すって 気持ちいいね  

「 ふふふ・・・ 裏の物干し場は 健在なのね 」

「 うん! あ きみの好きな温室もね〜〜 元気だよ。

 そろそろイチゴが 美味しい季節さ。 」

「 まあ すてき! 」

「 朝のサラダは ほとんどウチの温室から、なんだ。

 ジェロニモ Jr.が しっかり作ってくれてるから 

 とても便利だよ。 採れたてって ほっんと美味いよ 」

「 まあ 最高の贅沢だわ〜〜 

 家の庭で野菜やらお花を作るって 憧れなの 」

「 あ〜 それじゃ花壇、頼む〜〜

 ぼく、 花とかよくわかんなくて・・・ 

 庭に生えてる樹にはちゃんと水、 あげてるけど 」

「 そうなの? それじゃ 球根とか買っていい?

 花壇に植えたいの。 」

「 いいと思うよ〜 博士も 今、盆栽に凝ってるし 」

「 ぼんさい? 」

「 ウン。 鉢植えの樹 なんだ。 奥が深いらしくてさ ・・・

 コズミ博士に教わってるみたいだよ 」

「 ふうん  そうなの。 ぼんさい かあ 」

「 ミニチュアの松 とか 梅 とかね。 」

「 博士も趣味が広い方なのね 」

「 らしい よ。 囲碁もね〜 煙草屋のご隠居さんとよく

 対局してる。 」

「 ふうん ・・・ この町は いいわねえ 」

「 のんびりしてて いいよ〜 気候も温暖だし。

 ねえ 今晩の献立は? 

「 さっきのお肉!  セロリや玉ねぎとオーブンで焼くの、どう? 」

「 わっは〜〜〜〜 美味しそう〜〜〜 

「 あ ・・・ ジョーは ごはん と えっと・・・・

 あ そうそう おみそしる がいいよね  

「 あ できれば ・・・ 」

「 大丈夫。 それは 覚えてるから。  あ お味噌、ウチにある? 」

「 ある!  炊飯器はもうセットしてあるし。

 だは〜〜〜 楽しみ〜〜〜 

 

 ― 大荷物と共に帰宅して。

果たしてその夜は 三人で美味しい晩御飯を堪能した。

笑いあい おしゃべりしあい それが料理をますます美味しくした。

 

  おやすみなさ〜い   お休みで〜す   おやすみ  

 

笑顔で言い合い それぞれの部屋に引き上げた。

 

    カタン。      ドアを閉めれば一人きりの空間が広がる。

「 ふう ・・・ 」

フランソワーズは 重いため息をつき ベッドに座り込んだ。

 

     わたし。 ウソつき だわ

   

     故郷から 逃げ出したの。   

     いろいろ・・・ 忘れたかったのよ

 

   わたし ― 違うヒトとして生きたくて ここにきたの。

 

 

Last updated : 01,14,2020.                index     /     next

 

 

*********   途中ですが

早春 って 好きです。

不安定な あやうさ と 華やかさへの

序曲みたいで ・・・ (#^.^#)

二人の 序曲 かも〜〜〜〜♪♪